人気ブログランキング | 話題のタグを見る

人形佐七捕物帳 横溝正史

神田を舞台とする捕物帳は、このほかに「銭形平次捕物控」野村胡堂、「半七捕物帳」岡本綺堂があり、平次は明神下、半七は三河町、佐七はお玉が池の捕物名人である。

読み始めた本は、春陽堂文庫昭和45年6月30日第13刷の「雪女郎」である。雪女郎は15話の読み物の1話を題名にしている。
会話が軽快で読みやすく、しかも電車の中で読むのにちょうどよい長さで1話が完結する。
# by binjichan | 2007-06-27 13:05 | 今読んでいる本

かくれさと苦界行

隆慶一郎氏は、昭和59年「吉原御免状」で作家デビュー。映画『にあんちゃん」の脚本でシナリオ作家協会賞を受賞。時代小説で一時代を築くが、わずか5年の作家生活でおしくも急逝した。ほかに「影武者徳川家康」「一夢庵風流記」「死ぬことと見つけたり」がある。

この「かくれさと・・・」は「吉原御免状」の1年後に書かれた第二部で、週刊新潮に昭和61年7月から掲載されたものである。何年か前に「吉原御免状」を読んだはずだが、続けて読むべきであった。

全く正史からは想像もつかない創作性をもって面白い物語に仕立てられている。この物語は、1663年から1668年の6年間で、神君御免状に執念を抱く老中酒井清忠と組んだ復讐鬼屋牛義仙が、吉原を取り潰そうと岡場所(かくれさと)をつくり、ついに主人公誠一郎の吉原側と全面対決に及ぶという筋書きである。これに死んだはずの荒木又右衛門が絡み物語を盛り上げている。人を人として認め成り立っている自由と平等の砦である吉原(公界)に対し人間の尊厳を踏みにじることで成り立っている岡場所は苦界であり、この両者を描きながら、戦いは熾烈さを増していく。
この続きも期待したいところだが、三部四部と構想はあったようだが、作者急逝により後が読めないのは残念である。

# by binjichan | 2007-06-14 15:23 | 今読んでいる本

幕末風塵録 綱淵謙錠 文春文庫

動乱の幕末を将軍から遊女までその真相を探る随想集。全40話。
「諸君!」に昭和60年の1月号から12月号に連載された「幕末風塵録」の題による12話の随想に加えて、「普門」に「幕末に生きる」という題で昭和54年から昭和61年にかけて掲載された随筆をまとめたものである。

第1話 黒船ショック
アメリカ艦隊の後を追う伝馬船に乗っていた政七少年の記述部分が面白い。
米艦の水兵がくれた食糧が「パンに臭い鬢付け油のようなものがついていて鼻持ちならぬ」「ギヤマンの茶碗に赤黒い水を持ってきたので、人間の生き血に違いない」「異人は日本人にこんなものをくれて殺すつもりだろうと思っていた。」
私にも第二次大戦後、進駐軍とこれに近い体験があるので、当時の驚きが分かるような気がする。

第2話 榎本武揚と樺太
作者は樺太生まれ。日持上人の銅像の記憶から、上人が樺太経由で大陸に法華経の布教に渡り、日本人として始めて外国に妙法を説いたということから随筆ははじまり、榎本武揚の父が、伊能忠敬の弟子であったことから間宮林蔵の樺太話も彼は聞いているはずだ。ということからその子武揚は、その影響を受け、幕府艦隊の旗艦の艦長で幕末を向かえ北方に向かったのは、彼には蝦夷地の土地勘と北方に託した夢があったからではないかと、思いをつづらせている。

第三話 吉田松陰とテレパシー
作者が内地引き上げて薄い知人のところを尋ね世話になったときの体験と松蔭が処刑された夜、松蔭の両親が体験した夢とを重ねて、テレパシーの不思議さを語っている。

第4話 海を渡ったサムライたち
「77人の侍アメリカへ行く」--万延元年遣米使節の記録」レイモンド服部著になる祖父母の話による話

第五話 水垢離をとる勝小吉
現代の子供の教育における父親の役割に触れながら、勝海舟の父・小吉の子に対する愛情を
説く。

以下、40話、黒船来航から江戸城開城までの15年間の逸話を作者らしい観点でとらえた随筆集であるが、くどくなるので題名だけ羅列しておく。

大奥は砂糖天国
舟を漕ぐ遊女
護時院ヶ原の敵討
家茂びいき
将軍の気くばり
天誅のゆくえ
生麦の鮮血
写真術事始
ナポレオンと留学生
オランダ離れ
仏人 白山伯
攘夷派と国際派
パリのおまわりさん
慶喜裏切る
真犯人を追う 
文芸春秋界隈
時は流れる
戊辰の江戸
トコトンヤレ節由来
黒い爪痕
馬を駆る女
目撃者は語る
妖怪の実像
勇者の末裔
下北の会津藩士
死出の旅
刀痕記
門外不出の裏話
慶喜揺れる
海舟疑われる
死の正夢
二十年後の再会
獄中の地雷火
慶喜へのこだわり
百年の怨念を超えて
# by binjichan | 2007-05-24 14:21 | 今読んでいる本

「天平の甍」 井上靖 新潮文庫

高校2年の春、奈良・京都・四国方面の修学旅行が施行されるのが、通例となっていた。大学受験を配慮したスケジュールだったのであろう。その旅行の「しおり」編集委員になったとき,この「天平の甍」のどこだったかは記憶にないが、甍を表現した部分を抜粋して持ってきた仲間の委員がいた。そのとき、この小説の存在を知ったのであるが、完読した記憶はない。
たまたま、今日、蔵書を眺めていたら、目に留まったので取り出してみたくなった。昭和39年3月20日文庫本初版で蔵書は61年10月の52刷分である。高校卒業が33年春、東京タワーが完成したときだったので、いつ発表された作品なのか、抜粋してきた仲間はどこから引用したのか。今になって疑問になったのである。
それにしても、漢字が多いのに活字が小さい、読み進めるには、気力よりもそんなことが抵抗になる。
『天平の甍』は、第九次遣唐使で留学僧として唐に渡ることになった普照をはじめとする僧侶たちの使命感を描いた物語である。また、日本にはじめて正式な戒律(僧侶が守るべきしきたり)をもたらし、それまで混乱の極みにあった仏教界にあらたな秩序を築くことになった唐の高僧、鑑真の物語でもある。映画化されている。その映画監督熊井啓氏が昨日なくなられた。

1957年12月中央公論社発刊であることが、判りました。修学旅行の「しおり」編集は発刊まもない翌年の春だったことになります。多分彼はその当時から文学青年だったのであろう。

# by binjichan | 2007-05-22 18:31 | 今読んでいる本

「椿山」 乙川優三郎 文春文庫

前回に続けて乙川作品を読むことにする。同文庫本には「ゆすらうめ」「白い月」「花の顔」「椿山」の四作が収録されている。作者の始めての作品集で平成10年12月の刊本。

[ゆすらうめ」花がすぐ散るはかないものの象徴として表題がつけられているようである。農家の娘が貧乏のうえ借金のかたに売られる寂しい話なのだが、その中にも生きる女としての姿が描かれており、胸を締め付ける。ましてや我が家の庭にあるゆすらうめの花を見る季節になる度にこの作品が脳裏に甦るのでは、たまったものでない。「白い月」も「花の顔」も読むに従いつらくなる。いまよりも施設がない時代の「老人介護」をテーマにした後者は、姑の醜態に耐える嫁のつらさが、読者の心をえぐる。
「椿山」だけが中編小説である。最後の場面で、武士としての魂が甦り、急転直下の行動にでる主人公の態度に救いのある余韻がいつまでも残る。
この作者の他の作品も読みたくなる。

# by binjichan | 2007-05-19 17:04 | 今読んでいる本