「鉄道員ぽっぽちゃん」で第117回直木賞を受賞した作家の作品。チラッとテレビ放映中のこの映画を数ヶ月ほど前に見た記憶がある。小説の冒頭の部分であったのだが、何らかの事情で見るのを中断せざるを得ず、映画の脚本がどのように構成されていたのか、初めの部分になっているのか後の部分になっていたのかも定かではない。
今回、小説を読み終わり、本当に「にくい」作家であると思った。にくいという意味には、さんざん泣かせてくれたことに対する恨みがかなりの部分をしめるが、にくいほど巧い作品だという意味も当然含まれている。 先に呼んだ「憑神」は面白いという方が適切な作品とおもうが、当作品は、武士道とはなにか、武士社会の不条理や赤貧の飢餓のなかでの生きるということ。更にはその社会での夫婦・親子 ・兄弟愛の本髄をえぐってくれた作品だった。 主人公吉村貫一郎が南部藩の大坂蔵屋敷に満身創痍でたどり着いてから、切腹するまで一人称で語るお国訛りの長いセリフに心を打たれ、飲み屋の親父の回想録に引き込まれていく。殆どが、大正時代いわゆる小説の中の現代まで生き残った人の回想が誰だかわからぬ聞き手に向かっての話し言葉でこの小説は構成されている。だからなのだろうか、仁義というものが、食説読者に伝わってくる。 何度も読みたくなる傑作である。歴史時代小説100選を自分で選ぶとすれば、どうしてもその中に入れたいものである。第13回柴田錬三郎賞受賞。
by binjichan
| 2008-01-30 23:21
| 読んだ本の寸評
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