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漂流  吉村昭  新潮文庫 昭和55年12月発行

天明年間に水の湧かない火山島に漂着。12年間を生き抜き八丈島に帰還し、奉行所に陳述した記録を元にかかれた長編ドキュメンタリー小説。昨年暮れに暮に読み終えているのだが、暮れから二月に掛けて、中学時代の同窓会の準備や孫と遊ぶ正月行事、そして年老いた母の介護問題やらで、このブログに書き入れるのが今となってしまった。

しけにあい黒潮に乗って漂着した島は、絶海の孤島であり水がない火山島でもあった。生活手段を持たない無人島で、仲間の男たちは次々に倒れていったが、土佐の船乗り長平は、ただ一人生き残って、12年の苦闘の末に生還する。その生存の秘密は、渡り鳥とあきらめぬ意志の持ち方であり、壮絶な生き様には、感動を呼ぶ。
一貫して人間と自然との闘いの物語で人間同士の葛藤は、小さなものに思える。上陸した島にはあほうどりの群れが居た。孤島に閉じ込められた長平らの周りには、春に去って秋に戻ってくる大きな鳥のうごめきが感じられ、物語の大きな脇役でもある。人間の食糧として役立つばかりでなく、鳴き声や排泄物の異臭さえが、近くに生き物が居るやすらぎを生存者に与えている。その飛ぶ姿が脱出する希望さえあたえ、孤独に押しつぶされそうになる心をっさえている。
優れた描写の裏には、作者の克明な取材があり、和戦の構造、太平洋の気象、島々の風土、アホウドリの生態まで周到に用意された知識の裏づけがあってこその物語である。
そして、鮮明に教訓としてつづられている事項は、運動不足と栄養の偏りが人の命を簡単に奪うということである。海辺の海藻や貝類の接種がいかに人間の生命を維持するか、克明に描かれている。
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by binjichan | 2010-03-14 09:17 | 読んだ本の寸評