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冬の蝉  杉本苑子  文春文庫

著者が48年から53年にかけて小説雑誌に発表した短編8篇が収録されている。
といっても、この昭和の時期は、小生にとっては30代半ばで仕事に追いまくられていた時代で、小説を読む余裕は、大げさに言えばなかった。47年に過労と飲酒が重なり2週間ほど胃潰瘍で入院したときだけだった。その入院中に読んだのが、唯一「坂の上の雲」司馬遼太郎著で、以後、この作者の作品だけを追いかけていた時代でもある。当時の小生は、小説といえども仕事に結びつけ男の野望を満足させるそんな充実感のあるテーマの作品に魅力を感じていたと思う。
したがって、その当時この「冬の蝉」に掲載されている短編を読む機会も無かったし、読もうとする気持ちも無かった時の作品である。
たまたま、それを読もうとしてこの古本を手にしたのであるから、仕事を離れた男の気分なんていい加減なものである。
それなのに、読み始めると、作品のテーマを別にして、面白いというより、気分が転換して楽しいのである。
気力の継続時間が徐々に短くなる年齢なので、短編ごとをいっきに読み進める。そんな時間が快い。

「墓石を打つ女」は、直参旗本とその隣家に移り住んできたお匙医の家との井戸をめぐる異常な葛藤をえがいた作品であるが、その争いが徐々にエスカレートしていく過程が面白いとは、とても考えられなかったであろうし、お匙医家のあくどい嫌がらせに、堪忍袋の尾を切った直参が、弟の首をはねて直参の身分を返上して大目付に抗議し、お匙医の野望をくじくのだが、公儀がその約定を崩さないよう没するまで見張りを続ける。その直参が墓に入ったとき、お匙医の妻がその墓を杖で打つという結末であるが、老人のそんな執念や老婆の敵意と憎しみを絶やさなかった女の執念は到底理解できなかったように思う。

以下、「菜摘ます児」「礼に来た幽霊」「冬の蝉」「ゆずり葉の井戸」「嫦娥」「仇討ち心中」「仲蔵とその母」何れも読んでいる時だけの楽しみで、数日絶つと読後の文章に出来ないほど記憶からはなれている。
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by binjichan | 2009-08-17 23:24 | 読んだ本の寸評