敦煌  井上靖  新潮文庫

5月12日四川大震災の大災害が起こって10日にならんとす。春にはチベット民族の暴動鎮圧で夏開催のオリンピック聖火リレーに関して各国で人権問題だと物議をかもしたばかりである。
相した時期に、「敦煌」を読むことになったのは、強ちこれらの事柄に無関係で合ったわけではない。いや、むしろ国家主席の訪日があったからかもしれない。いずれにしても、中国の西域の歴史に多少触れてみたかったのであろう。
この小説は昭和34年に書かれ、翌年毎日芸術大賞を受賞しているのだが、松本幸四郎主演で劇場公演されたのをテレビ中継で観た記憶がある。そんなに遠い昔ではないと思うのだが、記憶違いであろうか?定かでない。
史実にのって小説化されているが、主人公の行徳も、脇役も架空の人物らしい。むしろ、主役は「敦煌」の街であり、行徳が歩み行動した地域なのかも知れない。あるいは、広大な中国の土地を治める民族の戦いそのものが、主題であり、個人としての主人公の存在は、小さな葛藤にしか思えない雄大な小説である。
高校時代に「天平の甍」を読み、久しぶりにこの作品を読んだのであるが、漢字の勉強には、もってこいの小説で、その面からもお勧めしたい。
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# by binjichan | 2008-05-21 13:57 | 読んだ本の寸評

戦雲の夢 司馬遼太郎 講談社文庫

作家の37歳時の長編。土佐の22万石を築き上げた長曾我部元親の三男、盛親を描いた作品。
男を描けば天下一品の作者だが、この作品では、盛親を取り巻く女性が見事に描かれている。
盛親は、父の生存中に兄がいるのに父の意向により跡目を継ぐ。秀吉の死後、西軍につき、関が原の戦いで毛利の指揮下にはいるが、戦うことなく敗れる。一介の牢人の身に落ちる。恥じ多き蟄居のなかで、戦陣への野望を密かにはぐくみ、再起をかけて遺臣たちと共に、大坂の陣に立ち上がるのであるが、大きな器量を持ちながら、結果は、家康の野望にくずれ、乱世に取り残された悲運の武将となる。この過程を女性観を含めて見事に描き出されている。幼友達であり家来である交友。忍者の献身的な働きなど個性豊かな脇役がでてきて、主人公の性格を浮き彫りにして最後まで面白く読めた。
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# by binjichan | 2008-04-17 21:48 | 読んだ本の寸評

歴史小説 読切御免第一巻と二巻 新潮文庫

表紙カバーに挿絵がない。一巻は黒一色、二巻は赤一色で金文字で「歴史小説と書いてあるのみ。珍しい装丁である。挿絵の費用をインク代に変えたようなものである。
内容は、現役作家の短編集。ほぼ、読み終わっているのだが、印象に残らない。短編集は、子供の頃の安普請のおもちゃのようで、呼んでいるときは、夢中で楽しむのだが、時間と共に記憶に残らず、忘れ去られる。作家と題名まで結びつかなくなるもののようだ。作品ごとに関連するテーマのコラムが載せられている。時代の背景を垣間見ることが出来る。
備忘のために作者と作品名を記しておく。

一巻
北方謙三 「杖下」
宮部みゆき「謀りごと」
小松重男 「一生不犯異聞」
安西篤子 「刈萱」
南原幹雄 「決闘小栗坂」
皆川博子 「土場浄瑠璃の」
船戸与一 「夜叉蚊鴉」
二巻
北原亜以子「傷」
安倍龍太郎「伏見城恋歌」
逢坂剛   「五輪くだき」
佐江衆一  「峠の剣」
杉本苑子  「一夜の客」
伊藤桂一  「赤城の雁」
津本陽    「死に番」
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# by binjichan | 2008-04-17 21:11 | 今読んでいる本

侍はこわい  司馬遼太郎  光文社文庫

司馬遼太郎の初めて本になる短編集である。
壮大かつ人間を活写した史劇で読者を魅了し続けた作者の印象ばかりでなく、この短編集でまた作者の異なる側面を垣間見ることが出来た。
収録されている作品は、
「権平五千石」
秀吉が大名になったばかりのときの家来には、清正・三成・嘉明・正則とその後大名になった武将がいる。しかし、平野権平は、いっぷう変わった障壁があった。
「豪傑と小壷」
稲津忠兵衛というとてつもなく強い豪傑の戦いに縁のないから回りした人生の話。死んだ後、ひょんなことでの小壷が本人の名をとどめることになる。
「狐斬り」
「忍者四貫目の死」
「みょうが斎の武術」
「庄兵衛稲荷」
「侍はこわい」
「ただいま十六歳」
いずれも、見栄えのよくない無骨な主人公がテーマになっている。登場する女性は、ふしぎと時代を乗り越えた偉大さが漂う存在感がある。
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# by binjichan | 2008-03-24 16:58 | 読んだ本の寸評

いっぽん桜 山本一力 新潮文庫

初めて山本作品を読む。人情時代小説というのであろうか、切ったはったの刃傷沙汰がないので、癒される。当文庫本は、何れも花を題名にした「いっぽん桜」「萩ゆれて」「そこに、すいかずら」「芒種のあさがお」の4編からなっている。
「いっぽん桜」
江戸時代のサラリーマン退職物語といえる。大店の頭取まで上り詰めた主人公の退職を言い渡された後の人情物語り。現代に通じるサラリーマンの悲哀とかぶせながら自分と重ねて読んでしまった。そこに登場するのが咲いたり咲かない年があったり気まぐれな庭の桜である。
「萩ゆれて」
土佐藩勘定方の長子、服部兵庫が、切腹させられた父の悪口をいわれ、果し合いのような木刀試合をして、打ちのめされ妹の好意で温泉治療に行く。そこでであった漁師の生活に憧れ、武士を捨てて漁師になることを母親の反対を押し切り断行する。やがて親身になって漁師になる手伝いをしてくれた漁師一家の娘と結婚し、城下に魚屋を開業する。
「そこに、すいかずら」
先代が江戸の材木商だったが大火で消失、その後、せがれが料亭を開業、大尽の紀伊国屋の口利きで寛永寺建立の材木手配の片端を荷い大もうけする。その金の一部で、ヒノキ御殿が3軒も建てられる大枚ををだして、一人娘のために日本一のひな飾りを注文、飾るのに一日を要する大きな拵えで、飾る広さは20畳、40畳の部屋のあるひな屋敷までたてる。さらに、立派なひな飾りが消失しないように、専用の蔵を建造して、江戸の大火から護る。だが、二度に及ぶ大火で店は消失、たくわえで再建するもすぐまた大火で、娘の両親は火事でなくなる。一人残されたその娘は、さてどうしたか。
「芒種のあさがを」
朝顔好きの父は、朝顔の本に夢中である。その娘が年頃となり水掛祭りに出かけた帰り、父の好きな朝顔を買って帰ろうと日本一の朝顔店に立ち寄ろうと道を尋ねたのが、そこの、せがれであった。お互いに惚れあい結婚し、あさがお屋のよめになるのであるが、舅と姑が一曲者で、難渋するのであるが・・・・

4篇に共通するテーマは、男親の娘に対する愛情の表現である。仕事は異なるが、それぞれの
一人娘に傾ける愛が描かれている。
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# by binjichan | 2008-03-12 17:48 | 読んだ本の寸評