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すし 鮨 寿司


今や日本を代表する世界的な料理になった握り鮨。一応、鮨の字を用いたがどれを使ってもよいらしい。酢飯から発生して「め」が取れて「すし」となったのが本来の言葉であり、漢字は当て字ということになる。魚が旨いと書いて鮨、めでたい寿を使って寿司。すし屋が屋号をつけるとき、好き好きに雰囲気で使い分けているにすぎないと思えばよい。
鮨が今のようになったのは、19世紀の前半の江戸時代だそうだが、時代小説の世界ですし屋で食べる情景を描いたのは、意外と少ない。私もすし屋にまつわる情景を描いた作品を読んだ記憶はない。それまでは自然発酵による馴れずしが主流であつたのが、酢の発明により酢飯にネタをのせて握るようになったようである。すぐできるすしなので、早ずしの異名もある。当時有名だったのは、深川の「松のすし」と両国の「与兵衛ずし」で、その後爆発的に広がり、町ごとにⅠ・2軒のすし屋があったようである。

こんな作品もあるようだ。
晩飯前で英助の健康な胃袋は好物をまえにしては歯止めがきかなかった。英助は遠慮もなく手を伸ばした。こはだは銀色に光り輝いていた。鮪のかッとした赤さ、穴子、卵焼きの厚さに感動した。(宇江佐真理「桜花を見た」
文春文庫)

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by binjichan | 2007-11-30 21:44 | 小説の周辺

江戸庶民の食事

時代小説でうまいもの描写がさかんに登場するのは、池上正太郎の小説が知られている。朝日新聞の広告特集(07・6・27)に新しい時代小説のうまいもの描写が載っていた。残念ながらどの小説もまだ読んでいない。

庶民の食事
江戸庶民の日常の食事は、現代から見るとかなり質素。幕末ころの記録によると、先ず朝ごはんを炊き、炊き立てのご飯に味噌汁だけ。昼は、冷や飯に魚か野菜を添える程度で、夕食は茶づけに漬物。昼が一汁一菜と最も豪華?な食事であった。
それでも江戸では庶民でも毎日尾ように白米が食べられたことが知られ、同時代の農村部から見ればまさに贅沢だったといえる。同時代髪型では昼にご飯を炊くのが一般的で、おかずの数も江戸より多かったとある。

箱膳には鯵の干物と分葱を散らした味噌汁、それに浅蜊の佃煮、焼き海苔が載っている。朝から豪勢な膳だが、食が太くて早飯食いの連中は、いくらも刻をかけずに平らげた。(山本一力「損料屋喜八郎始末控え」文春文庫)
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by binjichan | 2007-11-24 22:26 | 小説の周辺

五年の梅 乙川優三郎 新潮文庫 平成12年8月刊行

2001年に本書「五年の梅」で山本周五郎賞を受賞した。作者の名前のごとく優しさの詰まった作品集である。
「後瀬の花」「行き道」「小田原鰹」「蟹」「五年の梅」の5作品が収録されている。
作者は、周五郎の大のファンであるから、この受賞は、喜びであったに違いない。周五郎がある講演で語ったという有名な言葉が、「歴史と文学」に載っている。「慶長五年の何月何日に、大阪城でどういうことがあったか、ということではなくて、そのときに、道修町の、ある商家の丁稚が、どういう悲しい思いをしたか、であって、その悲しい思いの中から、彼がどういうことを、しようとしたかと言う事を探求するのが、文学の仕事だ」
上記の作品も、一貫して市井の人たちの悲しい思いが描かれている。乙川作品は、常に社会の隅にいる人々の世界である。長い間、下積みのくらしや、不自由な生活で苦労を強いられてきた人たちが、厳しい身分社会の中で、追い詰められ崖っぷちに立たされた最後の瞬間に、辛うじて生きる希望を取り戻し、もう一度生きる希望を取り戻し、生きようとする。そんな話が多いのも、この作者の特徴といえる。周五郎の文学の中心にある貧しい人間や旧知に陥った人間が、最後のぎりぎりのところで、生きる力を取り戻す、「死よりも生を肯定する」「暗さの中の明るさ」をこの作者は、受け継いでいる。総てが印象に残る作品である。
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by binjichan | 2007-11-23 23:33 | 読んだ本の寸評

江戸小説を描く平成の絵師 蓬田やすひろ

時代小説の挿絵 やブックカバーのイラストを描いて25年になるという。
この人の作品は、多くの人気シリーズの表紙を飾る。最初の作品は、藤原周平さんの「橋ものがたり」。
小説の世界観を大切にし、空気感を感じさせる構図、落ち着いた深みのある色調で仕上げたことが、この人の装丁画の原点になっている。
小説をじっくりと読んでイメージを膨らませ、更に練っていくというのであるから、かなりの冊数の時代小説を読まれていることになる。
小説家が作り上げた主人公のイメージを絵が踏みにじってはならないうえに、絵として作者のイメージを維持しなければならないこともあってか、絵の技にも工夫されている。
色は日本画の画材を幾つも混ぜて透明感のある癒されるような中間色を主体とし、癒される色になっている。また習字のように絵の中に「間」を設け空気感を表現し、美しく品位がありしゃれている。
物がない時代のシンプルさと人情味を、これからも描き続けて欲しいものだ。
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by binjichan | 2007-11-18 16:47 | 小説の周辺

泰平の底 早乙女貢 集英社文庫

1968年「僑人の檻」で直木賞受賞。代表作「おけい」「奇兵隊の叛乱」「会津士魂」。
本書は小さい活字で525ページに及ぶ。そのため目が疲れて途中で投げ出すのではと危惧したが、休み休みどうにか読み終えた。
それというのも、週刊新潮に昭和45年5月から連載されたもので、主人公は同一でも一話一話読みきりの形式をとってシリーズ形式の連載ものであるためであろう。
主人公の旗本の家系に生まれた部屋住みの加賀爪主水が、全編に登場し、江戸期の泰平安逸な時代を背景として、湯女を相手にして興味のあるストーリー展開を見せてくれる。
湯女風呂の湯女とのエロティズム描写が見所になっているが、風呂屋をとして、江戸風俗様子、特にその当時の風呂の様子がよくわかる。
剣と色の道に卓越した技をもちあわせる主人公像が鮮明すぎて、史的事例の解説をおろそかにして、読み急ぐ危険性がある。
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by binjichan | 2007-11-17 21:18 | 読んだ本の寸評