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幕末風塵録 綱淵謙錠 文春文庫

動乱の幕末を将軍から遊女までその真相を探る随想集。全40話。
「諸君!」に昭和60年の1月号から12月号に連載された「幕末風塵録」の題による12話の随想に加えて、「普門」に「幕末に生きる」という題で昭和54年から昭和61年にかけて掲載された随筆をまとめたものである。

第1話 黒船ショック
アメリカ艦隊の後を追う伝馬船に乗っていた政七少年の記述部分が面白い。
米艦の水兵がくれた食糧が「パンに臭い鬢付け油のようなものがついていて鼻持ちならぬ」「ギヤマンの茶碗に赤黒い水を持ってきたので、人間の生き血に違いない」「異人は日本人にこんなものをくれて殺すつもりだろうと思っていた。」
私にも第二次大戦後、進駐軍とこれに近い体験があるので、当時の驚きが分かるような気がする。

第2話 榎本武揚と樺太
作者は樺太生まれ。日持上人の銅像の記憶から、上人が樺太経由で大陸に法華経の布教に渡り、日本人として始めて外国に妙法を説いたということから随筆ははじまり、榎本武揚の父が、伊能忠敬の弟子であったことから間宮林蔵の樺太話も彼は聞いているはずだ。ということからその子武揚は、その影響を受け、幕府艦隊の旗艦の艦長で幕末を向かえ北方に向かったのは、彼には蝦夷地の土地勘と北方に託した夢があったからではないかと、思いをつづらせている。

第三話 吉田松陰とテレパシー
作者が内地引き上げて薄い知人のところを尋ね世話になったときの体験と松蔭が処刑された夜、松蔭の両親が体験した夢とを重ねて、テレパシーの不思議さを語っている。

第4話 海を渡ったサムライたち
「77人の侍アメリカへ行く」--万延元年遣米使節の記録」レイモンド服部著になる祖父母の話による話

第五話 水垢離をとる勝小吉
現代の子供の教育における父親の役割に触れながら、勝海舟の父・小吉の子に対する愛情を
説く。

以下、40話、黒船来航から江戸城開城までの15年間の逸話を作者らしい観点でとらえた随筆集であるが、くどくなるので題名だけ羅列しておく。

大奥は砂糖天国
舟を漕ぐ遊女
護時院ヶ原の敵討
家茂びいき
将軍の気くばり
天誅のゆくえ
生麦の鮮血
写真術事始
ナポレオンと留学生
オランダ離れ
仏人 白山伯
攘夷派と国際派
パリのおまわりさん
慶喜裏切る
真犯人を追う 
文芸春秋界隈
時は流れる
戊辰の江戸
トコトンヤレ節由来
黒い爪痕
馬を駆る女
目撃者は語る
妖怪の実像
勇者の末裔
下北の会津藩士
死出の旅
刀痕記
門外不出の裏話
慶喜揺れる
海舟疑われる
死の正夢
二十年後の再会
獄中の地雷火
慶喜へのこだわり
百年の怨念を超えて
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by binjichan | 2007-05-24 14:21 | 今読んでいる本

「天平の甍」 井上靖 新潮文庫

高校2年の春、奈良・京都・四国方面の修学旅行が施行されるのが、通例となっていた。大学受験を配慮したスケジュールだったのであろう。その旅行の「しおり」編集委員になったとき,この「天平の甍」のどこだったかは記憶にないが、甍を表現した部分を抜粋して持ってきた仲間の委員がいた。そのとき、この小説の存在を知ったのであるが、完読した記憶はない。
たまたま、今日、蔵書を眺めていたら、目に留まったので取り出してみたくなった。昭和39年3月20日文庫本初版で蔵書は61年10月の52刷分である。高校卒業が33年春、東京タワーが完成したときだったので、いつ発表された作品なのか、抜粋してきた仲間はどこから引用したのか。今になって疑問になったのである。
それにしても、漢字が多いのに活字が小さい、読み進めるには、気力よりもそんなことが抵抗になる。
『天平の甍』は、第九次遣唐使で留学僧として唐に渡ることになった普照をはじめとする僧侶たちの使命感を描いた物語である。また、日本にはじめて正式な戒律(僧侶が守るべきしきたり)をもたらし、それまで混乱の極みにあった仏教界にあらたな秩序を築くことになった唐の高僧、鑑真の物語でもある。映画化されている。その映画監督熊井啓氏が昨日なくなられた。

1957年12月中央公論社発刊であることが、判りました。修学旅行の「しおり」編集は発刊まもない翌年の春だったことになります。多分彼はその当時から文学青年だったのであろう。

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by binjichan | 2007-05-22 18:31 | 今読んでいる本

「椿山」 乙川優三郎 文春文庫

前回に続けて乙川作品を読むことにする。同文庫本には「ゆすらうめ」「白い月」「花の顔」「椿山」の四作が収録されている。作者の始めての作品集で平成10年12月の刊本。

[ゆすらうめ」花がすぐ散るはかないものの象徴として表題がつけられているようである。農家の娘が貧乏のうえ借金のかたに売られる寂しい話なのだが、その中にも生きる女としての姿が描かれており、胸を締め付ける。ましてや我が家の庭にあるゆすらうめの花を見る季節になる度にこの作品が脳裏に甦るのでは、たまったものでない。「白い月」も「花の顔」も読むに従いつらくなる。いまよりも施設がない時代の「老人介護」をテーマにした後者は、姑の醜態に耐える嫁のつらさが、読者の心をえぐる。
「椿山」だけが中編小説である。最後の場面で、武士としての魂が甦り、急転直下の行動にでる主人公の態度に救いのある余韻がいつまでも残る。
この作者の他の作品も読みたくなる。

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by binjichan | 2007-05-19 17:04 | 今読んでいる本

武家用心集  乙川優三郎 集英社文庫

次の8編が収録されている短編集である。
田蔵田半右衛門  (田蔵田は、麝香鹿の身代わりになる獣だそうです。)
しずれの音     (しずれとは、枝にから落ちる雪のこと)
九月の瓜
邯鄲(かんたん)  (虫の種類だそうですが、広辞苑にはありません)
うつしみ       (映し身と書くのでしょうか?)
向椿山
磯波
梅雨のなごり
 この作者の「直木賞」受賞作「生きる」に続いて読む作品である。今日「かんたん」まで4作読んだところ、藤沢周平作品の「たそがれ清兵衛」(前述)に収録されている短編よりも一ひねりしてあり、生きることに対する心の表し方が、素晴らしい。そして泣ける作品である。藤沢周平氏の作品は、氏が亡くなられて10年になるから、すでに刊行されているものという限界がある。個人的には、乙川優三郎氏がその穴を埋めてくれる作家ではないかと思っている。今後が楽しみである。
表題をみていただければ、お解かりいただけると思うが、季節感のある美しい「日本語」がつかわれており、題名そのものにも繊細な心配りが感じられる。美しい言葉を教えてもらうのと同時に、面白いお話を聞かせていただいたと思う作品集である。

微妙な心の動きやその内面が、見事に描かれている。映像にするには難しい作品ではないだろうか。ますます作者の作品が好きになる一冊である。

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by binjichan | 2007-05-17 14:50 | 今読んでいる本

たそがれ清兵衛 藤沢周平 新潮文庫

久しぶりの藤沢作品。「小説新潮」に昭和58年9月に掲載された秀作で、最近、映画化されたのでおなじみ深い作品である。本書(昭和63年9月)は、表題のほか「うらなり与右衛門」「ごますり甚内」「どわすれ万六」「だんまり弥助」「かが泣き半平」「日和見与次郎」「祝い人助八」の短編が収録されている。
それぞれ、たそがれ・うらなり・ごますり・どわすれ・かが泣きといった極端な性格または習性から渾名をつけられ、他人から侮られていた武士が共通項となっている。それらの武士が、藩内の派閥抗争の中で振るう秘剣の冴えと、各々の癖を通して語られる人生の織りなす微妙な彩りを活き活きと映し出している素晴らしい作品集である。面白く読んだ。
よく「藤沢作品は暗い」と言う人がいるが、私は決してそうは思わない。背景は暗い時代であるが、そこに生きている人たちを描く冴えは、読者にほのかな希望を投げかけてくれることが多い。また、自然の描写のうまさと美しさに救われるところがあると思う。

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by binjichan | 2007-05-13 21:44 | 今読んでいる本

足利尊氏 上下 村上元三作 徳間文庫

「忠臣楠木正成」「逆賊足利尊氏」のレッテルが自分の歴史観に幾分残っている。戦後の教育を受けているのだが、教師が戦前の教育を受けていれば仕方ないことなのかもしれない。戦前の皇国史観は、天皇の皇位継承をめぐる闘争は長い間タブー視され、戦後になって解禁されたとはいえ、その史観アレルギーはその後も残っていたと思われるからである。したがって南北朝の時代は、歴史時代小説にとっては、空白に近い分野であったとされ、この時代を扱う作家は少ない。戦後、最も早く南北朝の時代を扱った作家が、村上元三なのだそうだ。吉川英治の「私本太平記」が連載されたのが昭和30年代であるが、村上元三は昭和26年に「改造」に「足利尊氏」を発表している。今読んでいる徳間文庫収録の「足利尊氏」は昭和44年に刊行された長編である。この作品においても楠木正成や新田義貞たちの陰に隠れ、低く評価されていた尊氏の人間像に新たにスポットをあてているようである。読み終わってから何か書けそうである。

本日(13日)読み終わったので、所感を書いておくことにする。
足利幕府の初代尊氏から15代将軍義昭までの長編小説だが、私にとって小説の面白さを感じたのは少なくても3代の義満まで、尊氏の悲願だった南北朝が統一されるまでである。「学習研究社」の歴史小説シリーズとして書かれた性格からか4代以降、信長によって義昭が衰退させられるまでの過程は、史実を要約した解説書の記述のようであり、小説としての面白さにかけるように思われる。
しかし、尊氏が、鎌倉幕府を開き武家政治の創始者となった頼朝を政治のお手本としながら、皇室に尊崇の念を抱いていたので、天皇に叛旗を翻す意志はなく、南北朝の成立後も、これを一つにして新しい武家政治を打ちたてようとする理想を生涯貫き通すといった人物史観にたった
作者の意図は充分感じ取れた。冒頭、弥藤太・赤円坊が御醍醐天皇を隠岐から逃がす手伝いをするところから小説は始まるのだが、この二人に小萩という女性を造形された人物として登場させ、これらの人物の個性がこの小説を一層面白いものに仕立てている。
それにしても、親子兄弟、熾烈な権力争いの連続でその経緯を描くだけで大変な労力を費やさざるを得ないのであろうが、その頃の庶民の生活実感が感じられないのはどうしてであろうか。

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by binjichan | 2007-05-12 18:24 | 今読んでいる本

「鬼道の女王 卑弥呼」 黒岩重吾作 上下 文春文庫

この作者の古代小説を「聖徳太子」「落日の王子」蘇我入鹿と読んできて、この時代の極少量の資料を基に想像力豊かに小説にしてきた作者の力量に魅せられたので、数百年さらに遡った時代の小説を読むことにした。史実を追及しようとするのではなく、想像力をはたらかして物語にしている姿勢に気安さを感じながら古代のロマンを伝えてくれるからである。
「魏志倭人伝」に伝えられる邪馬台国の女王卑弥呼をどのように描き出されるのか、興味深い。
本書は、「別冊文芸春秋」の1992年から1996年夏季号にかけて連載されたもの。

上巻を読み終わったので、ここまでのあらすじを記しておく。(07・5・6)
宦官たちが権力を握る中国の後漢時代、西暦172年、中国の杭州湾岸に住む倭人集団の長たちが、海を眺めているところからこのロマンは展開する。
倭人集団の長ミコトたちが、反乱の続く中国から逃れ祖国へ戻るため後漢の船を奪い、黒潮にのって九州を目指す。苦労の末、有明海から筑後川に入りミコトはヤマト国の王となる。その娘ヒメミコの予知能力の助けを借り、ミコトは北部九州の小国家連合を目指す。ヒメミコの宣託と予言が大いに当たり、いつの間にかヒミコとよばれるようになる。そして、父ミコトの死後、北部九州連合国の女王となる。
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by binjichan | 2007-05-05 18:26 | 今読んでいる本

「落日の王子」蘇我入鹿  黒岩重吾著 上下 文春文庫

同作者の「聖徳太子」を読み終わり、その時代の余韻が残っている間にその子や蘇我馬子の孫の時代を感じようとこの本を選んだ。
唐の勢力を驚異にし高句麗、新羅、百済が戦々恐々としていた時代に、倭国も唐の中央集権国家を樹立しようとしていた時代、蘇我氏の権力に立ち向かう中大兄皇子と中臣鎌足らのクーデター(大化の改新)までの小説。
はたして、蘇我入鹿を討つための策略とは何か?斑鳩に移り住んでいた聖徳太子の子孫一族は、入鹿にどのように殲滅されたのか?興味をそそる古代史ロマンを味わっている最中である。
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by binjichan | 2007-05-02 13:14 | 今読んでいる本