カテゴリ:読んだ本の寸評( 42 )

投げ銛千吉廻船帖 白石一郎 文春文庫

海洋歴史小説作家の異色小説。
千吉は、幼いころから船暮らしで、若くして船を持ち船頭となるが、海難事故により8人を失う。その中には自分の弟2人がふくまれていた。この失態が主人公の精神的な暗部となり、フリーの船頭として、江戸の裏長屋に住み、口入屋からの注文により、船に乗る立場が、この小説の背景である。この千吉が、袂に隠した小さな銛を武器に、人助けをしたり、悪者を懲らしめる短編集である。江戸の下町と海の世界を描く連載。長屋に住む旗本の妾親子と絵描が弟の姉弟とのふれあいを描きつつ、航海での事件にふれていく攻勢であるが、銛の秘術をどこでだし、どう描写されるかに読者の興味は注がれる。もうひとつ、千吉がどのように登場人物の女性と結ばれるようになるかと想像しながら読むのであるが、親切心と護ろうとする気持ちはあつても、作者は、千吉を独り者のまま長屋から遠ざける。シリーズものとして次の展開に制約を与えないためであろう。
1992年の10月から「オール読物」に連載され94年までの6篇を収録したものであるが、その後、収録文庫本の続きを目にしたことがないので、そのことが気にかかる。
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by binjichan | 2008-02-04 12:40 | 読んだ本の寸評

壬生義士伝 上下 浅田次郎 文春文庫

「鉄道員ぽっぽちゃん」で第117回直木賞を受賞した作家の作品。チラッとテレビ放映中のこの映画を数ヶ月ほど前に見た記憶がある。小説の冒頭の部分であったのだが、何らかの事情で見るのを中断せざるを得ず、映画の脚本がどのように構成されていたのか、初めの部分になっているのか後の部分になっていたのかも定かではない。
今回、小説を読み終わり、本当に「にくい」作家であると思った。にくいという意味には、さんざん泣かせてくれたことに対する恨みがかなりの部分をしめるが、にくいほど巧い作品だという意味も当然含まれている。
先に呼んだ「憑神」は面白いという方が適切な作品とおもうが、当作品は、武士道とはなにか、武士社会の不条理や赤貧の飢餓のなかでの生きるということ。更にはその社会での夫婦・親子
・兄弟愛の本髄をえぐってくれた作品だった。
主人公吉村貫一郎が南部藩の大坂蔵屋敷に満身創痍でたどり着いてから、切腹するまで一人称で語るお国訛りの長いセリフに心を打たれ、飲み屋の親父の回想録に引き込まれていく。殆どが、大正時代いわゆる小説の中の現代まで生き残った人の回想が誰だかわからぬ聞き手に向かっての話し言葉でこの小説は構成されている。だからなのだろうか、仁義というものが、食説読者に伝わってくる。
何度も読みたくなる傑作である。歴史時代小説100選を自分で選ぶとすれば、どうしてもその中に入れたいものである。第13回柴田錬三郎賞受賞。
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by binjichan | 2008-01-30 23:21 | 読んだ本の寸評

戦国武将 リーダーたちの戦略と決断 白石一郎 文春文庫

著者は、62年に「海狼伝」で97回直木賞を受賞、平成四年には「戦鬼たちの海」で柴田錬三郎賞、同11年に「怒涛のごとく」で吉川英治文学賞を受賞している。海洋ものを得意として、有名になっても福岡に居住し続けていたので、印象深い。
本書は、19編からなる戦国武将に関する随筆集であるのだが、新たな資料から戦国の世の武将たちを考察していて興味深い。それぞれの武将の時代が、分かりやすく簡潔に背景として描き出されているので、歴史のポイントがよく理解できる一方、人物の特徴が語られている。今までのイメージと異なる点を歴史資料から引き出そうとする意図が感じられて、面白い。
秀吉の人間管理では、その巧みさと一代で最高峰に上り詰めたゆえの管理上の欠陥が浮き彫りにされている。
竹中半兵衛と黒田官兵衛との知将の比較。武田信玄と上杉謙信の違い。権謀術数に長けた毛利元就など歴史を身近に感じさせてくれる。19編の中でも新たな視点で黒衣の宰相・崇伝と天海を比較した世界は、武将の裏側から見た宗教の大物の側面が理解でき新鮮な知識と感覚を与えられたようである。
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by binjichan | 2008-01-22 16:11 | 読んだ本の寸評

色懺悔 鼠小僧盗み草紙 多岐川 恭  徳間文庫

鼠小僧こと源次郎はこの小説では、もてる男だ。小柄で見栄えがしないのに、次から次といい女を女房にして暮らしていく。それぞれの女に良いところを見出して、相手が喜ぶことで、自分も満足し、相手を思いやる配慮がある。相手の幸福を考えて分かれる手はずをする。浮気性であるが、この配慮が盗賊にあるまじき魅力となっている。史実に基づく鼠小僧とはイメージをことにする鼠小僧が登場する。
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by binjichan | 2008-01-09 21:52 | 読んだ本の寸評

風雲 交代寄合伊那衆異聞 佐伯泰英 講談社文庫

このシリーズ「変化」「雷鳴」に続く第3弾の作品である。作者は平成の売れっ子作家で1942年福岡生まれである。年齢も生まれも個人的に身近に感じる上、前身がカメラマンというから、さらにその感が深まる。本屋のスペースをどんどん侵食しており、すでに文庫本だけでゆうに1000万部を越えたと言ううからすごい。まだ、作者の作品は、このシリーズの3冊しか読んでいないが、すぐ続きを読みたくなるストーリーの面白さが、なんともいえぬ楽しさがある。黒船がやってきて幕府崩壊間際がこの背景となっている。歴史上著名な人物が描かれる中で、主人公藤之助が伊那谷で鍛えた剣術を屈指して幕末社会で活躍し出世していく過程を楽しめた。次の「邪宗」「阿片」が早く読みたくなる。が手元にまだないのが、残念である。未読のシリーズも沢山残っているので、あわてずおいおい片付けていくつもりだ。
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by binjichan | 2008-01-09 10:09 | 読んだ本の寸評

江戸を駆ける 神坂次郎 中公文庫

あとがきで著者が紹介している享保年間の易学書が興味深い。歴史小説を書くために歴史関係の資料を読み漁っている人だから、見つけられるのであろう。
享保年間というと吉宗の時代に、250年後の現在を予言しているのであるから、興味がわく。

「切支丹ノ法イヨイヨ盛ニナリテ空トブ人モ現ハレナム。地ニモグル人モ出デ来ルベシ。風雨ヲ駆リテ電電ヲ投ズル者アラン。死シタルヲ起ス術モ成リナン。サルママニ人ノ心漸ク悪シクナリテ恐シキ世ノ相ヲ見ツベシ。親ハ子ヲハグクメドモ子ハ親ヲカヘリ見ズ。夫ハ妻ヲ養ヘドモ、妻ハ夫ニ従ワズ。男ハ髪長ク色青白クヤセ細リテ、戦ノ場ナドニ出テ立ツコト難キニ至ラム。女ハ髪短ク色赤黒ク、袂ナキ衣ヲ着テ、淫リ狂ヒテ父母ヲモ夫ヲモ、ソノ子ヲモ顧リミヌ者多カラム・・・」

ノストラダムスの大予言底抜けにぴたりと現代を言い当てている。
好奇心の赴くままに歴史資料を読み漁っている著者ならではの、うずもれた逸話が掘り起こされている本書は、今までの歴史観を変えさせられる場面が方々に出てくる。うづもれている人の
紹介もある。
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by binjichan | 2008-01-08 12:40 | 読んだ本の寸評

憑神  浅田次郎  新潮文庫

この朝日新聞に蕎麦屋の親父のセリフで二八蕎麦と呼ばれる由来が掲載されていたことから、この小説の存在を知ったのであるが、残念ながら、題名が読めなかったのである。
面白い小説に久々にであった。
時は幕末も幕末。貧乏御家人の主人公が、ある夜、酔いに任せて小さな祠に神頼みをした。
神は神でも、貧乏神、疫病神、死神ととことん運から突き放されながらも、懸命に生きる。
この姿は抱腹絶倒。
やがては、感涙間違いなし。
主人公別所彦四郎が養子先井上家でつくった嫡男、市太郎に「限りある命が虚しいのではない、限りある命ゆえに輝かしいのだ。武士道はそれに尽きる。生きよ」といいおいて、意地も忠義も無く御徒士の矜りをもって、その世の輝きのため死する場所に赴く。母も妻も声をあげて泣いていたが嘆いてはいなかった。人々はみな、嘆かずに泣いた。

徳川家の滅亡家庭を背景に、御家人の様子を旨く引き出した傑作だと思う。どの時代にも
うずもれたよき人間がいるからこそ、次の時代が来るのではないだろうか。と考えさせられた。
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by binjichan | 2007-12-24 21:40 | 読んだ本の寸評

風車の浜吉・捕物綴「月夜駕籠」伊藤桂一 新潮文庫

歴史時代小説100選に選ばれている「病たる秘剣」の「隠し金の絵図」に続き観光された続編シリーズである。
捕物小説は、「半七捕物帳」から始まりこの風車の浜吉・捕物綴」までに百数十名の作家により刊行されている。
この主人公、風車の浜吉は、苦労人ゆえに人情にもろく、法や掟だけで物事を考えないところが特徴といえる。浜吉は江戸で一・ニといわれた十手持ちであったが、追い詰めてお縄にしようと思った相手から金をもらって見逃したため、法を犯して罪を問われ五年の間諸国を流浪する羽目になった。それも長患いの女房と子供の病気が重なり、魔がさしたのだ。その女房も子供も死んでしまい、何のために掠め取った金かと空しくなり、江戸を出て諸国を流浪したのである。あるとき天竜川の護岸工事をしているとき、みちのく生まれの男から、竹の風車の作り方を教えてもらった。江戸に戻るとこの風車を小石川伝通院の境内で売り、社寺でにぎあう行事があると出向いていく。ある日、伝通院でその風車を懐かしそうに手にとり、あなたは気仙あたりの人かと尋ねた女性が、子持ちの後家で、お時という。親しくなり浜吉の女房になる。お時は笹屋という小料理屋で働いている。浜吉親分は、犯人を捕らえるよりも捕らえた犯人の罪をどう軽くしてやるかをいつも腐心している人情家で、「天網恢恢疎にして漏らさず」が口癖で、この言葉が
絵解き説明のときの重要な小道具になっている。
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by binjichan | 2007-12-05 21:54 | 読んだ本の寸評

御宿かわせみ30 鬼女の花摘み 平岩弓枝 文春文庫

「オール読売」に平成13年7月号から14年4月号までに連載されたものを、17年に文庫本になったシリーズものの30冊目である。NHKでも放映された江戸の風物詩も豊かな人気シリーズである。かわせみ次世代の子供たちの成長が頼もしくほほえましく描かれている。
7編の収録であるが、最近の中で印象に残る作品が多数あった。
鬼女の花摘み
浅草寺の絵馬
吉松殺し
白鷺城の月
初春夢づくし
招き猫
蓑虫の唄
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by binjichan | 2007-12-01 10:26 | 読んだ本の寸評

五年の梅 乙川優三郎 新潮文庫 平成12年8月刊行

2001年に本書「五年の梅」で山本周五郎賞を受賞した。作者の名前のごとく優しさの詰まった作品集である。
「後瀬の花」「行き道」「小田原鰹」「蟹」「五年の梅」の5作品が収録されている。
作者は、周五郎の大のファンであるから、この受賞は、喜びであったに違いない。周五郎がある講演で語ったという有名な言葉が、「歴史と文学」に載っている。「慶長五年の何月何日に、大阪城でどういうことがあったか、ということではなくて、そのときに、道修町の、ある商家の丁稚が、どういう悲しい思いをしたか、であって、その悲しい思いの中から、彼がどういうことを、しようとしたかと言う事を探求するのが、文学の仕事だ」
上記の作品も、一貫して市井の人たちの悲しい思いが描かれている。乙川作品は、常に社会の隅にいる人々の世界である。長い間、下積みのくらしや、不自由な生活で苦労を強いられてきた人たちが、厳しい身分社会の中で、追い詰められ崖っぷちに立たされた最後の瞬間に、辛うじて生きる希望を取り戻し、もう一度生きる希望を取り戻し、生きようとする。そんな話が多いのも、この作者の特徴といえる。周五郎の文学の中心にある貧しい人間や旧知に陥った人間が、最後のぎりぎりのところで、生きる力を取り戻す、「死よりも生を肯定する」「暗さの中の明るさ」をこの作者は、受け継いでいる。総てが印象に残る作品である。
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by binjichan | 2007-11-23 23:33 | 読んだ本の寸評