カテゴリ:読んだ本の寸評( 42 )

人情時代小説傑作選 「感涙」 細谷正充編

「感涙」を誘う作品のアンソロジー。ただし、人の不幸・死や難病を主題とした暗い面から見たお涙頂戴ではない。悲劇には変わりないが、先に明るみの在る作品集なので、深く心打たれる作品ばかりである。
筋書きを羅列するつもりはない。感涙よりも感動した面が強い。
お勧めできる短編集といえる。
作者も新旧著名な時代小説作家である。
掲載作品と作者を列挙しておく。

「遠い砲音」       浅田次郎  
「ごめんよ」       池波正太郎
「塩むすび」       笹沢佐保
「欅三十郎の生涯」   南條範夫
「夜もすがら検校」   長谷川伸
「老将」          火坂雅志
「ちっちゃなかみさん」 平岩弓枝
「うどん屋剣法」     山手樹一郎
「金五十両」       山本周五郎
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by binjichan | 2008-07-05 22:17 | 読んだ本の寸評

敦煌  井上靖  新潮文庫

5月12日四川大震災の大災害が起こって10日にならんとす。春にはチベット民族の暴動鎮圧で夏開催のオリンピック聖火リレーに関して各国で人権問題だと物議をかもしたばかりである。
相した時期に、「敦煌」を読むことになったのは、強ちこれらの事柄に無関係で合ったわけではない。いや、むしろ国家主席の訪日があったからかもしれない。いずれにしても、中国の西域の歴史に多少触れてみたかったのであろう。
この小説は昭和34年に書かれ、翌年毎日芸術大賞を受賞しているのだが、松本幸四郎主演で劇場公演されたのをテレビ中継で観た記憶がある。そんなに遠い昔ではないと思うのだが、記憶違いであろうか?定かでない。
史実にのって小説化されているが、主人公の行徳も、脇役も架空の人物らしい。むしろ、主役は「敦煌」の街であり、行徳が歩み行動した地域なのかも知れない。あるいは、広大な中国の土地を治める民族の戦いそのものが、主題であり、個人としての主人公の存在は、小さな葛藤にしか思えない雄大な小説である。
高校時代に「天平の甍」を読み、久しぶりにこの作品を読んだのであるが、漢字の勉強には、もってこいの小説で、その面からもお勧めしたい。
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by binjichan | 2008-05-21 13:57 | 読んだ本の寸評

戦雲の夢 司馬遼太郎 講談社文庫

作家の37歳時の長編。土佐の22万石を築き上げた長曾我部元親の三男、盛親を描いた作品。
男を描けば天下一品の作者だが、この作品では、盛親を取り巻く女性が見事に描かれている。
盛親は、父の生存中に兄がいるのに父の意向により跡目を継ぐ。秀吉の死後、西軍につき、関が原の戦いで毛利の指揮下にはいるが、戦うことなく敗れる。一介の牢人の身に落ちる。恥じ多き蟄居のなかで、戦陣への野望を密かにはぐくみ、再起をかけて遺臣たちと共に、大坂の陣に立ち上がるのであるが、大きな器量を持ちながら、結果は、家康の野望にくずれ、乱世に取り残された悲運の武将となる。この過程を女性観を含めて見事に描き出されている。幼友達であり家来である交友。忍者の献身的な働きなど個性豊かな脇役がでてきて、主人公の性格を浮き彫りにして最後まで面白く読めた。
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by binjichan | 2008-04-17 21:48 | 読んだ本の寸評

侍はこわい  司馬遼太郎  光文社文庫

司馬遼太郎の初めて本になる短編集である。
壮大かつ人間を活写した史劇で読者を魅了し続けた作者の印象ばかりでなく、この短編集でまた作者の異なる側面を垣間見ることが出来た。
収録されている作品は、
「権平五千石」
秀吉が大名になったばかりのときの家来には、清正・三成・嘉明・正則とその後大名になった武将がいる。しかし、平野権平は、いっぷう変わった障壁があった。
「豪傑と小壷」
稲津忠兵衛というとてつもなく強い豪傑の戦いに縁のないから回りした人生の話。死んだ後、ひょんなことでの小壷が本人の名をとどめることになる。
「狐斬り」
「忍者四貫目の死」
「みょうが斎の武術」
「庄兵衛稲荷」
「侍はこわい」
「ただいま十六歳」
いずれも、見栄えのよくない無骨な主人公がテーマになっている。登場する女性は、ふしぎと時代を乗り越えた偉大さが漂う存在感がある。
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by binjichan | 2008-03-24 16:58 | 読んだ本の寸評

いっぽん桜 山本一力 新潮文庫

初めて山本作品を読む。人情時代小説というのであろうか、切ったはったの刃傷沙汰がないので、癒される。当文庫本は、何れも花を題名にした「いっぽん桜」「萩ゆれて」「そこに、すいかずら」「芒種のあさがお」の4編からなっている。
「いっぽん桜」
江戸時代のサラリーマン退職物語といえる。大店の頭取まで上り詰めた主人公の退職を言い渡された後の人情物語り。現代に通じるサラリーマンの悲哀とかぶせながら自分と重ねて読んでしまった。そこに登場するのが咲いたり咲かない年があったり気まぐれな庭の桜である。
「萩ゆれて」
土佐藩勘定方の長子、服部兵庫が、切腹させられた父の悪口をいわれ、果し合いのような木刀試合をして、打ちのめされ妹の好意で温泉治療に行く。そこでであった漁師の生活に憧れ、武士を捨てて漁師になることを母親の反対を押し切り断行する。やがて親身になって漁師になる手伝いをしてくれた漁師一家の娘と結婚し、城下に魚屋を開業する。
「そこに、すいかずら」
先代が江戸の材木商だったが大火で消失、その後、せがれが料亭を開業、大尽の紀伊国屋の口利きで寛永寺建立の材木手配の片端を荷い大もうけする。その金の一部で、ヒノキ御殿が3軒も建てられる大枚ををだして、一人娘のために日本一のひな飾りを注文、飾るのに一日を要する大きな拵えで、飾る広さは20畳、40畳の部屋のあるひな屋敷までたてる。さらに、立派なひな飾りが消失しないように、専用の蔵を建造して、江戸の大火から護る。だが、二度に及ぶ大火で店は消失、たくわえで再建するもすぐまた大火で、娘の両親は火事でなくなる。一人残されたその娘は、さてどうしたか。
「芒種のあさがを」
朝顔好きの父は、朝顔の本に夢中である。その娘が年頃となり水掛祭りに出かけた帰り、父の好きな朝顔を買って帰ろうと日本一の朝顔店に立ち寄ろうと道を尋ねたのが、そこの、せがれであった。お互いに惚れあい結婚し、あさがお屋のよめになるのであるが、舅と姑が一曲者で、難渋するのであるが・・・・

4篇に共通するテーマは、男親の娘に対する愛情の表現である。仕事は異なるが、それぞれの
一人娘に傾ける愛が描かれている。
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by binjichan | 2008-03-12 17:48 | 読んだ本の寸評

大岡越前 縄田一男編 廣済堂文庫

円熟作家が描く大岡忠相(ただすけ)後の越前守のアンソロジー。
映画テレビでおなじみの名奉行大岡越前守の活躍を描いた7編の作品軍である。
収録作品 作者 底本 を順に記しておく

「間の山の心中」 佐江衆一 「伊勢奉行八人集」php研究所
「くじら裁き」 杉本苑子 「鶴屋南北町の死」文春文庫
「白子屋騒動」 村上元三 「代表作時代小説 昭和32」 東京文芸社
「殺された天一坊」 浜尾四郎 「昭和ミステリー大全集」 新潮文庫
「投げ火の伝兵衛」 長谷川伸 「七つの捕り物」 東方社
「殺人蔵」 山田風太郎 「妖説忠臣蔵」 集英社文庫
「天守閣の音」 国枝史郎 「妖異全集」 桃源社

何れもどこかで忠相が登場するのであるが、「殺人蔵」においては、どこで登場したのか不明。
最初の二編は、忠相が山田奉行時代の作品。伊勢奉行は、日光奉行と同格。地蔵に縄をかけ悲運の男女を救う新説版といえる。
二作目は、水揚げされたくじらをめぐって二村が権利争いする物語り。
「白子屋騒動」は当時乱れていた江戸の世相に警鐘を鳴らすため重刑をかした話。等々。
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by binjichan | 2008-03-04 17:02 | 読んだ本の寸評

三屋清左衛門残日録 藤沢周平 文春文庫

「別冊文芸春秋」172~186号に連載されたのが、平成元年9月に単行本となった。その文庫本(1994年1月第7刷)を読んだ。
NHKの深夜放送で松平アナウサーが朗読していたので、いつか読んでみようと思っていた小説である。
一遍ごとに完結した短編になっているが、全編を通じて藩主ご用人が隠居してからの日常生活が描かれているのであるが、藩内の派閥争いが底流にある藩内国許での生活であるので、自ずとその流れの中での交流関係が主体と成っている。
定年と当時の隠居生活と同一視するには、多少無理があるが、職を離れての生活という意味では、高齢者の生きる道を示唆しているところがある。
それにしても、この作者の自然描写の旨さには、なんともいえない自然を直視する繊細さを感心させられ、場面に臨場感を漂わせる文章表現に、いつも感嘆させられる。
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by binjichan | 2008-02-29 20:14 | 読んだ本の寸評

風の武士 上下 司馬遼太郎 講談社文庫

久しぶりに読む司馬作品。司馬遼太郎の初期作品には、忍法ものがかなりのウエイトを占める。直木賞作品「梟の城」もそうであるが、この「風の武士」も伊賀の家系を先祖に持つ次男坊が主人公である。江戸から東海道を経て熊野の秘境へ、伝説の秘国の黄金を求めて、幕府の隠密、紀伊藩の隠密が、幕閣や大名、豪商の欲にかられて殺到する。迷路と血の争いの果てにたどり着いたの処は、ユダヤ人の」部落であった。
以前、四国の秘境にユダヤの財宝が隠されている可能性があるともっともらしく記した書をよんだことがあるが、この小説では、熊野の山奥の伝奇物語として、描かれている。
主人公の性格からそうなるのか、会話部分が簡単明瞭で短く、心の動きは()で記されて読みやすく、物語の進展に引きずり込まれていく。が、作者の社会観なのかどうか分からないが、「梟の城」でもそうであったように、目的に向かって壮絶なまでの努力をしても、最後は、読者の想像を裏切り、期待はずれの平凡なところで、落ち着かされている。
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by binjichan | 2008-02-26 08:34 | 読んだ本の寸評

武士の本懐 細谷正充・編 ベスト時代文庫

そうそうたる時代小説作家の武士道小説短編の傑作集である。

武士という階級がなくなって、明治・大正・昭和・平成と時は経たが、武士道の示す生き方に心惹かれる人は多い。人間いかに生きるかの命題がその中に存在しているからであろうか。主に奉ずるために命を絶っても、家系家族を継続させる大きなモラルが武士社会に存在していたからであろうか。終身雇用制の日本の会社組織にもその美徳が引き継がれたように思う。今、その体制も国際競争の波にのまれ変貌した。家族に対する考えもそれと共に変わりつつあるように思えてならない。

武士の紋章 池波正太郎 「歴史読本」1967年6月号
備前名弓伝 山本周五郎 「講談雑誌」1946年5月号
国戸団左衛門の切腹 五味康祐 「週刊朝日別冊」1960年5月号
日本の美しき侍 中山義秀 「別冊文芸春秋」1952年11月号
男は多門伝八郎 中村彰彦 「小説NON]1993年12月号
残された男 安倍龍太郎   「オール読物」1993年1月号
武道伝来記 海音寺潮五郎 「日の出」1936年3月号
権平けんかのこと 滝口康彦 「小説CLUB]1972年6月号
一遍ごとに十分楽しめた作品集である。これからも心の片隅に武士道をおいて、生きたいと思うこのごろである。
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by binjichan | 2008-02-11 12:07 | 読んだ本の寸評

ご隠居忍法 唐船番 高橋義夫 中公文庫

ご隠居忍法の第四弾である。多分この作者の唯一のシリーズ長編である。この作者は平成四年に「狼奉行」で第106回の直木賞を受賞している。千葉県の船橋市生まれであるが、還暦近くになるとよくある田舎志向の作者のようである。
田舎暮らしを探求する読物も書いている。
主人公は奥州の寒村に暮らす伊賀者の子孫で、お庭番の役をとかれて隠居暮らしをしている鹿間狸斎である。江戸の仲間から旧知の人物のある符号をみせられ、死んだと届けられているその人物のその後を確認するため、隠居仲間の新野耕民とともに、北に向かう。
唐船番とは、公儀から派遣され隠密に「抜け荷」を暴く役どころであるが、この唐船番が仕組んだ掌に乗せられ旅をしているとは、最後の最後まできずかず、探索の旅を続ける。
元伊賀者お庭番の主人公は、老いても多様な武術を屈指して蜜命の確信に迫っていく。
心の動きや内面の描写がすくないので、心打たれる作品というよりも、筋書きをおっていく活劇物といえる。
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by binjichan | 2008-02-06 17:55 | 読んだ本の寸評