五年の梅 乙川優三郎 新潮文庫 平成12年8月刊行

2001年に本書「五年の梅」で山本周五郎賞を受賞した。作者の名前のごとく優しさの詰まった作品集である。
「後瀬の花」「行き道」「小田原鰹」「蟹」「五年の梅」の5作品が収録されている。
作者は、周五郎の大のファンであるから、この受賞は、喜びであったに違いない。周五郎がある講演で語ったという有名な言葉が、「歴史と文学」に載っている。「慶長五年の何月何日に、大阪城でどういうことがあったか、ということではなくて、そのときに、道修町の、ある商家の丁稚が、どういう悲しい思いをしたか、であって、その悲しい思いの中から、彼がどういうことを、しようとしたかと言う事を探求するのが、文学の仕事だ」
上記の作品も、一貫して市井の人たちの悲しい思いが描かれている。乙川作品は、常に社会の隅にいる人々の世界である。長い間、下積みのくらしや、不自由な生活で苦労を強いられてきた人たちが、厳しい身分社会の中で、追い詰められ崖っぷちに立たされた最後の瞬間に、辛うじて生きる希望を取り戻し、もう一度生きる希望を取り戻し、生きようとする。そんな話が多いのも、この作者の特徴といえる。周五郎の文学の中心にある貧しい人間や旧知に陥った人間が、最後のぎりぎりのところで、生きる力を取り戻す、「死よりも生を肯定する」「暗さの中の明るさ」をこの作者は、受け継いでいる。総てが印象に残る作品である。
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by binjichan | 2007-11-23 23:33 | 読んだ本の寸評
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