「椿山」 乙川優三郎 文春文庫

前回に続けて乙川作品を読むことにする。同文庫本には「ゆすらうめ」「白い月」「花の顔」「椿山」の四作が収録されている。作者の始めての作品集で平成10年12月の刊本。

[ゆすらうめ」花がすぐ散るはかないものの象徴として表題がつけられているようである。農家の娘が貧乏のうえ借金のかたに売られる寂しい話なのだが、その中にも生きる女としての姿が描かれており、胸を締め付ける。ましてや我が家の庭にあるゆすらうめの花を見る季節になる度にこの作品が脳裏に甦るのでは、たまったものでない。「白い月」も「花の顔」も読むに従いつらくなる。いまよりも施設がない時代の「老人介護」をテーマにした後者は、姑の醜態に耐える嫁のつらさが、読者の心をえぐる。
「椿山」だけが中編小説である。最後の場面で、武士としての魂が甦り、急転直下の行動にでる主人公の態度に救いのある余韻がいつまでも残る。
この作者の他の作品も読みたくなる。

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by binjichan | 2007-05-19 17:04 | 今読んでいる本
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